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[頭皮針、手背針、体針、耳針の組み合わせによる癌の予防と治療]

 およそ半世紀前は、食糧難(栄養不良)、重労働(体力の消耗による抵抗力の低下)が主要な原因であつた虚証タイプの癌であつた。現代の癌は、病名は同じ癌であつても、原因も性質も異なる実証タイプの癌である。
現代病の特徴は食べ過ぎによる痰湿(痰湿中阻)、ストレスによる気滞瘀血(肝気鬱結),運動不足による瘀血等による実証である。
実証タイプの癌は、虚証の脾虚生湿による痰湿と血虚肝鬱による瘀血によつて形成される痰瘀互結の癌とは、癌の形成過程が明確に異なる。
虚証の癌は、栄養不良による正気不足が問題であつたが、食糧難の時代には、十分に栄養を摂取することができなかつたので、正気(気血津液)不足による癌に対して、免疫力を向上させて治療することは難しかった。 このタイプの癌の治療は虚証をベースにした虚実夾雑証なので、手技も補法をベースにした補瀉兼治となり、治療も、やや複雑になる。
現代の実証タイプの癌治療は、このような問題がないので、専ら痰湿や瘀血等の去邪にポイントをおけばよい。
癌患者は痰湿中阻になっていて、痰湿に邪魔されて脾胃の機能が働きにくい状態になつている。
中焦の痰湿を去邪することによつて、臓腑の働きが活発になり、中焦で気血津液が作られるようになり、正気( 免疫力 )が充実してくる。免疫力の向上で、毎日、作られている癌細胞をやつけることができるので、癌の予防ができるようになる。また、さらに、正気が充実してくれれば、全身のあらゆるところで、増殖を続けている癌をやつけることができる。これは、現代医学の免疫療法に相当する考え方に共通しているが、免疫力の向上をはかるのは針灸治療の得意とするところである。
治療法は瀉法になるので、実証タイプの癌の治療法は、虚証タイプより比較的シンプルである。
 だが、実証タイプの癌治療の困難さは、癌の原因になるアルコール、甘いもの、なまもの等の食べ過ぎ、飲み過ぎを控えること、ストレスをできるだけ受けないようにする、ストレスを速やかに解消する、運動不足にならないようにするといつた癌になる原因を改善することであるが、現代社会の中で習慣化したものなので大変難しいことによる。
 癌の予防と治療の成功のカギは、この困難な問題に正面から取り組むことである。
 癌になるその他の原因として、タバコ、仕事の仕方、有害な化学物質、遺伝的素因等があるが、上記の原因がほとんどである。
 癌も、一種の生活習慣病と考えられるので、現代社会の食生活、文化、仕事の仕方やストレス、運動不足等による生活習慣病になる現代社会全般の有り様を見直さない限り、二人に一人が癌になるような現状から抜け出せることはできない。現状が変わらない限り、あなたも私も癌になる可能性があることを忘れないでもらいたい。
運動不足の問題は、地方では、徹底した車社会になつていることである。10分も歩けば行けるコンビニでの買い物であつても、車に乗る人がほとんどで、歩くことを忘れたかのようである。職場の行き帰りは、もちろん、車である。職場では、一日中、椅子に座って、パソコンをしている。いつ、歩くのか尋ねたくなる。
 小手先の議論ではなく、現代文明の有り様をひっくり返すような議論と変革が必要である。
 繰り返しになるが、現代病である癌治療は、第一に、頑固な痰湿と瘀血を取り去ることである。
 癌細胞は日々、作られているが、体内に自然に備わっている免疫力で抑制されている。このような免疫力が低下した時に、癌を発症する。
癌の予防と治療のカギは、しつかりした免疫力を維持することである。そのためには、正気を充実させること、頑固な痰湿と瘀血を去邪することがポイントになる。
頭皮針の督脈上の中焦(肝胆脾胃)と前額髪際の中焦の取穴は、正気を充実させる、また、肝気鬱結による瘀血、痰湿中阻による痰湿等の去邪に極めて有効である。
 また、頭皮針は体針と違って長時間、置鍼できる。長時間置鍼することで治療効果を上げることができる。
頭皮針以外の治療法で、肝気鬱結による瘀血の治療に良い効果を発揮するのは、手背針の肝経線と耳針の肝である。
体針による肝気鬱結の気滞瘀血の治療は、先ず、内関から間使に透刺(横刺)して気を動かす。気が動けば血も動きやすくなる。内間、間使の厥陰経と同名経である厥陰肝経で、肝気鬱結に効く原穴の太衝と、血に作用しやすい三陰交の3点セットの配穴は極めて効果的である。
痰湿の治療は、頭皮針では中焦である。耳針では脾胃である。体針では陰陵泉、豊隆、足三里、太白(虚証の時代には、専ら、脾気虚の補法の経穴として使われてきたが、実証の時代の現代では、原穴なので補瀉いずれにも使用できるし、また、体重節痛を主る兪穴であるので、去湿にも適している。)の4穴がよい。また、この4穴は、正気を充実させるポイントになる経穴である。
このような配穴は、全ての癌治療に共通して使うことができる。状況によっては、頭皮針あるいは体針だけでもかまわない。癌の種類や気血津液弁証次第で、瘀血あるいは痰湿のいずれかにポイントをおいて治療するとよい。
 また、癌治療には、耳ツボの肝、脾、胃、神門、腫瘍特区、局所取穴を追加するとよい。
癌の種類や症状の違いがあるので、臓腑弁証、気血津液弁証、経絡弁証をして治療すればよい。
 例えば、 肺癌であれば、癌治療の共通穴に頭皮針の上焦、中焦と体針の尺沢、肺兪、中府、耳ツボの肺、脾、神門を追加すればよい。腎、膀胱、前立腺等の癌には頭皮針の下焦、中焦と体針の陰陵泉、中極、耳ツボの腎、膀胱、前立腺、脾を追加するとよい。卵巣癌、子宮癌は頭皮針の下焦、中焦、手背針の肝経線、体針の三陰交、太衝、曲泉、中極、子宮穴を追加するとよい。手技は全て瀉法になる。
 乳癌のように、表面的な癌は、直接的に癌の中心部に刺針すると、比較的簡単に癌が溶けてなくなることがある。
刺針したことによる癌の消失と共に生じた癌細胞の転移に関しては、足三里に灸をして、白血球やリンパ球を増強して対応すればよい。足三里は脾胃で正気(白血球、リンパ球も邪気である癌細胞を食い殺す正気の一部である)を生じさせる最適のツボである。
 塊の癌よりばらけた癌細胞の方が処理しやすい。癌に直接刺針しない遠隔取穴による治療法では、癌細胞が飛び散る問題はない。癌に直接刺針しなくても遠隔取穴の弁証取穴でも、癌を消失させることができる。
 鍼灸は免疫細胞を増強して癌の予防と治療ができる。癌に対する本治法であると言える。
癌の種類や転移の状態、進行の程度、抗癌剤の投与の有無と種類、手術の状態等、現代医学のデーターは参考にして治療するとよい。また、現代医学と同時進行で治療することもできる。
ただし、両医学の体系が全く異なるので、機械的に現代医学を取り入れることは、中医学の基本から脱線して訳の分からない治療になるので、よく整理して対処した方がよい。
中医学に基づいた癌治療は、これまで、針の不適応疾患として扱われてきたので、これから開始されることになる。まさに、前途多難であることが予想されるが、絶望視することもない。
 発症した臓器や部位、さらに転移した臓器や部位については、何故、そこに発症したか、何故、そこに転移したのかについて、かなりの程度、納得できる解釈ができる。さらに、転移する臓器や部位についても、ある程度、予想できる。
転移の問題は、痰湿は全身至る所を巡る。瘀血も至る所にできやすいことと関係している。
癌に関するこのような問題は、経絡、気血津液、陰陽五行理論を基礎にした臓腑弁証で、殆どの場合、解釈できる。 例えば、慢性化したストレスで常に肝気鬱結状態にあり、さらに、ストレス喰いによる食べ過ぎで痰湿中阻になって痰湿がいっぱい溜まっている女性は、肝経と関連している婦人科系の臓器である卵巣や子宮に癌を発症しても不思議ではない。また、肝経のルート上に、さらに相生相克関係で脾胃に転移しても不思議ではない。
*癌の治療困難な理由ー食糧難の貧しい時代には免疫力、つまり、気血津液(正気)を増やすことが困難であつた。
現代では、飽食とストレス、運動不足による痰湿、瘀血、つまり、邪気(癌の原因物質)の増加を食い止めることは難しい。
また、癌は頑固な痰瘀互結であり、転移もするので、これまでの治療法には限界があつた。
新しい治療法は、治療回数をできるだけ増やして集中治療する。また、頭皮針、手背針、体針、耳針の4つの治療法をセットにして行うと、これまでの治療法では困難であつた難病であつても治療結果を出すことができる。とりわけ、頭皮針は全身の司令塔である脳に作用しやすいので、脳の側から全身のあらゆる疾患に対応することができる。
現代医学にとつて難病であつても、医学体系が異なり、弁証論治に基づいておこなう針灸治療にとつては、現代医学の難病(認知症、鬱病、自律神経系失調症、低血圧症、高血圧症、遅脈、全身性の冷え性、冷えのぼせ、く手足のしびれ、肩凝り、耳鳴り、難聴、頭痛、慢性の便秘と下痢を交互に繰り返すタイプ、間質性肺炎、潰瘍性大腸炎、脳血管障害による半身麻痺、難治性の眼病、アトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性の喘息等、眼瞼下垂、胃下垂、あらゆる部位の即効性のリフトアップ、全身性の浮腫み、頻尿、尿失禁、原因不明あるいは診断不可能とされた疾患全般、パソコン病、顎関節症、顔面、全身、表情等に対する同時的で即効性のある美容等)は、得意分野になるものが多い。癌治療も、その例外ではないと思われる。(反対に、針治療にとつて、治療不可能なものは、現代医学にとつては得意な疾患になるものが、いくらでもある。このような関係性にあることを認識して両医学は協力関係を築いて行くことが大切である。癌治療の分野においても同様のことが言える)今後、臨床実践を積み重ねて行く中で、癌の予防と治療の有効性を明らかにして行きたい。

 

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